目次
プロフィール
松﨑 由葵(研究開発部 研究課)2018年シーボンに入社。スキンケアラインの新製品の処方開発を中心に担当。美容科学・皮膚科学・製剤化技術などのさまざまな視点から研究開発を行っている。
月本 峻司(研究開発部 研究課)2017年シーボンに入社。製造・包装などの生産ラインと化粧品の開発から商品が完成するまで一連の業務を経験。マセの研究開発には足掛け6年以上携わっている。
清水 茜(研究開発部 開発課)2002年シーボンに入社。フェイシャリスト®としてキャリアをスタート。その後、教育・指導部門、新規事業部にて新規開拓事業を経験し、化粧品企画を担う開発課へ。
(取材当時 2024年6月現在)
※フェイシャリスト®は株式会社シーボンの登録商標です
肌との対話を行いながら「調える」をキーワードに、新たなラインへリニューアル!
30年も愛され続けている製品のリニューアルに携わった感想や苦労した点を教えてください。
清水:1994年にフェイシャリスト トリートメントマセが誕生し、今年発売から30年を迎えるにあたってリニューアルに取り組んできました。これまでシーボンがお客様に提供してきたホームケアとサロンケア、その両輪からのアプローチを改めてより多くの方にお伝えするために必要不可欠なアイテム、それが「マセ」でした。現在取り組んでいるシーボン60周年のリブランディングプロジェクトにおいても、研究・開発、美容指導部門、現場スタッフであるフェイシャリストで議論を重ね、お客様の声に耳を傾け、たどり着いたのが「肌との対話」でした。
これまで私達は手を使って、お客様の肌と対話をしてきました。その代表的なアイテムが「トリートメントマセ」です。マセは、サロンではフェイシャリストが直接お客様の肌に触れる、ご自宅ではお客様ご自身が肌に触れることにより、自分の肌と対話を楽しむためのアイテム。汚れを洗い落とすだけではなく、むしろ肌のコンディションを整えるアイテムだということで「肌を調える」、「ゆらぐ肌を調律する」という気持ちを込めています。
松﨑:研究する立場としては、周年やリニューアルに限らず、常にマセをよりマセらしくする、マセを改良する研究をずっと続けています。そんな中、「調律する」、「調える」という新たな価値が見出されたことがリニューアルを動かしていく大きな指針になりました。
月本:30年のロングセラー製品であるマセは、歴代の研究者によりブラッシュアップされ続けてきました。その研究を私が引き継ぎ、6年程になります。
そもそもマセとは何なのか、大変繊細なアイテムで処方も独特、マセをマセたらしめているものは何なのか、ずっと考えてきました。それが「調える」「調律」というキーワードにピタリとはまり、やっと答えに辿り着いたと感じています。
肌悩み別シリーズ毎にあったマセを「調えるライン」として1つに集約した理由は何ですか?
清水:シーボンでは、「落とすケア」を非常に重要視してきました。それはクレンジングや洗顔は肌に負担がかかるステップだからです。これまでマセは、各シリーズの中のクレンジングとして配置されていましたが、「落とすケア」としてでは伝えきれない大きな魅力があるという確信が研究・開発者にはありました。
魅力の一つとして、マセは美容成分をふんだんに配合しています。ただ洗い落とすアイテムではなく、肌に負担をかけずに肌を調える、スキンケアの土台としての役割を担っていること。その根底には、落とすことがスキンケアのスタートであるという考えがあります。その魅力を的確にお伝えするために、今回「調えるライン」として再構成しました。
お客様になりたい肌や肌悩みで選んでいただけるように、トリートメントマセ(保湿)、ブライトマセ(明るさ・透明感)、アドバンスルビーマセ(ハリ)、リフレッシングマセ(すっきり・洗い流し)の4つのマセを展開しています。これまでのマセを踏襲しつつ、さらに技術面も進化させました。
「調えるライン」のマセの4種類について教えてください。
清水:ロングセラーの「トリートメントマセ」は今までの保湿要素を大切にし、乾燥による小ジワを目立たなくする効能評価を新たに獲得しました。
「ブライトマセ」はホワイトシリーズのマセを継承しつつ、くすみの原因となる「リポフスチン」に着目し、肌の明るさや透明感のあるクリアな肌印象を追求しています。
「アドバンスルビーマセ」は、ACとコンセントレートのエイジングケアの考え方や想いを踏襲。肌への効果とやさしさを大切に、やわらかなテクスチャーを維持しながら、肌ごこちをさらに追い求めました。
「リフレッシングマセ」は、ジムや旅先といった外出時などに持ち歩いていただけるチューブタイプ。指のすべりがいい、軽いテクスチャーで、洗い流せるものになっています。ふき取る手間が省けるので、気軽にマセらしさを感じながらお使いいただける、忙しい朝にもピッタリの新しいタイプの「時短処方のマセ」といえるでしょう。
今回の再編成では、シーボンがこれまで大切にしてきた「ホメオスタシス」をコンセプトにしています。ホメオスタシスとは、人に備わっている常に自分の身を一定の状態に保とうとする性質=恒常性のことです。肌にもダメージを受けゆらいだとしても、その機能を維持し、元に戻す力があります。今回のマセはその力を大切に考えたうえで生まれ変わりました。
今回のリニューアルで変えたこと、あえて変えなかったこと。
シーボンのこだわりは「濃密処方」ですが、今回のリニューアルで大事にしたこと、変えなかったことは何ですか?
〜スクワラン・肌ごこち・トリプルアクションラメラについて〜
月本:マセの主成分はスクワラン(保湿成分)です。スクワラン自体が美容成分として単体でも売られている成分なのですが、マセに関わるようになって初めて処方を見たときに、その配合量にびっくりしました。まずスクワランを主成分とすること自体が、濃密処方だと思っています。今回も変わらずクレンジングとは思えないほどの量を配合しています。
松﨑:その独特な使用感“肌ごこち”も、変えてはいけないことだと考えていました。この肌ごこちだからこそクレンジングができて、マッサージもできる、スキンケアも兼ねている。ホームケアでもサロンケアでも使える多機能なアイテムになるのだと、確信していました。まず、リニューアルにあたって、マセの魅力を解明するところから始めました。マセは、肌にのせてマッサージをしたときに、汚れを取り去りながらうるおいを肌の角層すみずみまで届けます。そして、マッサージの最後まで適度な厚みを維持できること、これがマセの使用感“肌ごこち”を支えているという仮説を立てました。
月本:マセを肌になじませて透明になったときに、マセがどんな状態になっているのか、顕微鏡で観察してみると、肌の「ラメラ構造」とよく似た構造をしていました。
肌の「ラメラ構造」とは、細胞間脂質のことです。水分と油分がミルフィーユ状に重なっていて、外的刺激から肌を守ったり、肌の内側からの水分の蒸発を防ぐことでうるおいを閉じ込めるといったバリア機能を担う構造です。
さまざまな検証の結果、このクリームからラメラ構造へと変化し、維持し続ける現象が、クレンジングクリームでありながら、長時間のマッサージとスキンケアまでできるという3つの機能を持たせることができている重要なファクターであることが明らかになりました。ラメラ構造だからこそ肌になじみやすく、角層すみずみにうるおいを行きわたらせる働きがあり、肌ごこちを実感しやすいのだと思います。
清水:マセの「クレンジング」「マッサージ」「スキンケア」の3つの機能を発揮するテクノロジーが解明されたことで、その技術を体現する新たな名称をつけました。それが「トリプルアクションラメラ」です。この技術名が誕生したことで、お客様にマセの魅力をよりわかりやすくお伝えできるようになったと思います。
「肌ごこち」を大切にし、「使いやすさ」を追求するために、新たに配合した成分や変更したことはありますか?
〜肌ストレスケア・香りの強化・チューブタイプの登場について〜
月本:今回、新たに肌ストレスケアに着目し、乾燥する肌をケアする2種の共通保湿成分を配合しました。「カラー花酵母エキス」と「センチフォリアバラ花エキス」です。サロンや自宅で行うマセを使ったトリートメントをよりここちよくするために、という想いを込めました。
松﨑:ほかにも、新しいマセの香りをつくろうということで新たな開発を行いました。
新しいマセの香りとしてどんな香りがいいか、ここちよさを追究して50種類以上のサンプルから厳選し、さらに10種類に絞り込んだのですが・・・。どの香りもマセらしさというところで決め手に欠ける結果となってしまいました。そこで香りを変えここちよさを追求するのではなく、スキンケアを楽しめるリラックスタイムに昇華させるために香気成分である「α-ピネン」を採用しました。
最終的にトリートメントマセの香りはほとんど変えずに少しフローラルが感じられるように仕上げました。
月本:マセの処方は独特で、研究者の目から見てもかなり繊細です。少し成分を変える、配合量を変えるだけでも、状態が大きく変化してしまいます。検証段階の小さなラボスケールではうまくいっても本格的な生産レベルにスケールアップするとうまくいかないということも多々あります。量だけでなく、つくり方にもコツが必要。まるで料理をするときのように、原材料を入れる順番や、温度、混ぜるタイミングまで、細かく記録をつけながら処方を完成させていきます。数えきれないほどの検証だったので、それが一番大変だったかもしれません(笑)。
清水:「使いやすさ」という点では、80gのチューブタイプ(リフレッシングマセ)を定番化したことでしょうか。この新しいタイプの「時短処方のマセ」は2年ほど前に限定商品として発売した際、お客様からもスタッフからも好評いただき反響が大きかったため、新たにチューブタイプとして定番化する開発を進めました。マセは独特で繊細な処方のためチューブ形態にすることはかなり難しかったんです。マセらしさはジャータイプの容器に象徴されるということもあり、今回チューブタイプを定番化することは大きな決断でしたが、製品化が叶い、新たにマセを手に取っていただく方がいたり、愛用者の方に外出先でも手軽にマセを使っていただけるようになるのではと考えています。
マセがお客様の肌と心に寄りそう存在になれるように。
最後に、マセを愛してくださるお客様へのメッセージをお願いします。
清水:日本人の肌は繊細で、四季により肌悩みも変わり、年齢によって肌悩みも増えていきます。まずその肌悩みをクレンジングという一番肌に負担がかかるところから見直して、肌との対話の時間を取っていただけたら嬉しく思います。
そのなかで、マセがお客様の肌に寄りそい、日々の生活を謳歌していただくお手伝いができる存在でありたいと思います。
マセを愛してくださるお客様がいて、マセを大切にしてきた研究・開発者やフェイシャリストがいて、30年という節目を迎えることができました。会社も60周年を目前にし、これまでの妥協しない化粧品づくりの歴史を大切に、シーボンをまだご存じない方にも化粧品を手に取っていただく機会を増やしていきたいと思っています。より多くの方にシーボンの化粧品を通じて輝いていただきたいという思いを胸に、この先100年と続いていくため、真摯に研究・開発を行っていきます。